錆びチェーン
東急ハンズでチェーンを買ってきて、うちで錆びさせたものです。私はたまたまハンズで買いましたが、ホームセンターでも買えますし、その辺の金物屋でも買えると思います。
念を押しますが、「錆びちゃった」のではありません。「錆びさせた」のです。
草月流の皆さんは、知っている人が多いと思いますが、錆び鉄というやつは、味があって良いものです。画像のチェーンも、買ったばかりのときはピカピカで「工業製品丸だし」な感じでしたが、ここまで錆びると「製品」のにおいが薄れます。
このチェーンは、買ったときから「いけばな作品用」でして、ほかの使い道から流用したものではありません。そして、「錆びさせる」のも、買う前からの予定でした。ピカピカのチェーンは、よほどうまく使い方を発見しないと、いけばな作品にするのは難しいように思います。
私は、こいつの錆び色が大好きでして、許されるなら永遠にいじって遊びたいです。
しかし、ここまで錆びさせるのは、私の予想を大幅に超える時間が必要でした。実に、10年ほどもかかっています!!
私の、最初の予定としては、「数ヶ月で錆びるだろう」などと思っていたのです。
だって、駐車場の隅っことか、店舗の裏とかで、超さびさびのチェーンが丸まってたりするじゃないですか。それに、結局チェーンというやつは鉄じゃないですか。多分、屋外で使うことを予想して、メーカーはコーティングに工夫しているのだろうけど、それがはげたら後はこっちのものだと思っていました。
世の中には、「錆びたら困る鉄製品」なのに、わりと速やかに錆びてしまうものがいくらもあります。たとえば、鉄製のフライパンなど、ちょっとうっかりすると、真っ赤に錆びてしまうことがあるものです。このチェーンだってそうさ、と私は思いました。
しかし、現実にはそうではありませんでした。
私が、「思いのほか厳しい」と気付いたのは、買って2週間目くらいです。
錆びさせたいものですから、私はバケツの水の中にチェーンを投入し、毎日様子をうかがっていたのですが、水の中のチェーンはキラキラのままびくともしません。
そのため、ようやく、
- 塩水に漬ける
- 酢水に漬ける
- 表面を鑢で傷つける
などの方法を試しましたが、なんと季節が二回ほど変わってもチェーンは錆びませんでした。
しかも、ピカピカよりももっと悪い、「変な斑黒」みたいな不気味な色へ変わっていきました(今思えば、この不気味色のときが、コーティングの剥がれるときだったんじゃないかと思います)。
私は、ちょっとだけ「しまった。不気味色になる前に、ピカピカで使う方法を考えればよかった」と思ったりもしました。その頃には、「錆びないんじゃないか」という気持ちになってきていたからです。「錆びさせる方法」の模索も、すでに万策尽きていました。
そんな経緯で、ほとんど諦めの境地になり、やぶれかぶれになってで窓の外にくくりつけて雨ざらしにしたところ、なんとこれが錆びさせるには一番の早道でした。錆が、どんどんチェーンの表面に広がり始めました。
しかし「いけばな家が使いたいきれいな錆び色」になるまでは「年」を重ねる必要がありました。「これなら使ってもいいかな」と思う色になるのには、3~4年ほど要しました。
そこから、錆び鉄の実物をいじくって作品の構想を練り始め、途中からチェーンを追加して錆びさせたりしていましたので、作品に結晶するまでに結局は10年かかりました。
こちらの作品がそうなのですが⇒2011年草月展 要するに、「構想10年、製作10年」の作品ってことになります。(参考までに=この作品のチェーンは、例によって「ワイヤーなし」で留まっています。鉄パイプに巻き付けるだけで、落ちてこないものですから、そのまま本番にGo!してしまいました。そして、サンキライの赤い実も、「乗っけてるだけ」です。いつものように、「徹頭徹尾留め道具なし」でした)
10年もかけて作ったわりに、私は「これからも、鉄錆びチェーンを多用していこう」とは思いません。自分が好きなように作ったものなので、愛着はありますが、死ぬまでにもう一回くらい作品にするかもな、くらいの感じです。もちろん、道具部屋に保管して、使いたくなったらいつでも使えるようにはしておきます。捨てませんとも! 作ろうと思ったら、また10年かかるんですもの。
買ったのは20年ほども前のことなので、チェーンの値段がいくらだったのかは忘れてしまいました。しかし、そう高いものではないはずです。
そして、何メートル買ったかも忘れてしまいました。測ってみれば、長さは分かるんですけど、これを広げると、錆が落ちて後の掃除が大変なので、広げて計るのはちょっとご勘弁を。
錆については、「私も錆び鉄使いたい」と思っておられる方のために書きますと、画像のチェーンからはしこたま錆びの粉が落ち、いじると部屋がザリザリになります。作っている最中は、正直これが一番イヤでした。
私が使用したチェーンは、何回かに分けて買いましたが、すべて同じ大きさでした。
あらかじめ輪の大きさを決めてから買いに行ったのではなく、「このくらいだと、存在感が出て良い」と思うサイズを、店頭で実物を見て決めました。
10年間、このチェーンで色んなことを試しましたが、これといって人様にお伝えできるようなノウハウはありません。私がわかったことは、
鉄は難しい
扱いは「各論」のみで「総論」は無い
ということです。
しかし、実に楽しい10年ではありました。
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