ごくろう様

※旧ブログの記事です

ブティックや、飲食店に、大きな花が飾ってあるのをよく見かける。
あれは、多くは花材を担いだ花屋さんが週一くらいでやってきて、古いのを引っこ抜いては、新しいのを生けていくのである。

私は、この仕事をずいぶんやった。私のお客さんは、いわゆる「中国クラブ」とか「韓国クラブ」が多く、そういうお店は、無論ママさんも外国人である。
私は、お店が閉まっている昼間に、花を担いでクラブを訪ねる。そうすると、大陸のイントネーションで、「オネガイシマース」と迎えられるのだ。
ママさんばかりか、ホステスさんも全員外国人であるから、私が花を換えている後ろで、店の女の人たちが話している言葉は日本語ではない。
未知の言語というものは、早口で喋られると、なんだか怒っているように聞こえることがあり、「喧嘩してるのかな?」と思うことがたまにある。しかし、顔を見ると大抵笑顔だから、どうも私の勝手な印象であるらしい。

あるとき、例によって花を担いで、韓国クラブに生け換えに行った。
うなぎの寝床式の、幅の狭い店で、花を生けている私の背中に、カウンターが当たるほどだった。そのカウンターの中で、ママさんらしき人と、ホステスさんらしき人が、お国の言葉で話をしていた。
二人とも、何やらぺらぺらとまくし立てるように喋っている。いつものように、「なんとなく喧嘩してるように聞こえるなあ」と思っていたら、聞くとも無く聞いているうちに、徐々に二人の声は大きくなり、本物の「マジ喧嘩」以外の何物でもない言い合いになっていった。(言ってる意味はわかんないけど)
背後にののしりあいを聞きながら花を生けるのは、非常にツライ。私が、会話の内容を全く理解していなくても、業者として、義務でこの場にいるのだとしても、いたたまれない気持ちに変わりは無い。
こりゃあ、たまらん、さっさと生けて帰るに限るわい、と私は思い、それはそれはすばらしい勢いでアレンジを作った。
今振り返っても、生花装飾一級技能士試験もらくらくパスみたいなスピードであった。
生け終えて、ちゃちゃちゃっと荷物をまとめ、さささささっと掃除をして、カウンターの中をパッと振り返り、
「ありがとうございました!」
と声をかけたところ、
「#*☆▼》^Ш“★!!!!」
「$Ш-☆〇¨@ヽл▲!!!!」

と叫びあっていた二人の女性が、二人そろってバッとこっちを向き、
「ゴクロウサマ!!(二人完全にシンクロ)」
と吠えるように言って、またキッとにらみ合い、
「#*☆▼》^Ш“★!!!!」
「$Ш-☆〇¨@ヽл▲!!!!」
と再開し始めた。
私は荷物を担いで、店に逃げ帰った。

私は、韓国語はアンニョンハシムニカくらいしか分からない。
だから、あの時彼女たちは、何について争っていたのか、全くもって不明なのである。

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